2020.5.21 立憲都連セミナー(9月入学)
コロナ禍で注目されている9月入学の是非。
一部の知事が積極的な発言をする一方で、現場である基礎自治体の感覚や、その他の社会環境に鑑みると、今年の9月に入学時期を切り替えることは非現実的に思えます。
なお、私の持論を先にお伝えすると、「9月入学そのものは否定しないが、今ではない」という立場です。
こうした中、立憲民主党の東京都連では、日本大学の末冨芳教授を講師としてお招きして、9月入学についての勉強会が行われました。
議論の状況
9月入学の立て付けについては、
・今回の新入生のみ17ヶ月(4~翌8月)の1.5倍ボリュームとする案
・1学年の範囲を毎年1月ずつズラして5年間の新入生が13ヶ月に亘る案
・小学ゼロ年生を設けて小学校を6年半にする案
など様々出ていますが、政策目的が完全に見失われている状態であると末冨先生は指摘しています。
いずれの案でも、待機児童の激増や学年の分断は避けられず、また受験を控えた若者についての言及も少なく、制度をどう改変するかばかりが議論され、子どもたちにいかなるメリットも見いだされない状況です。
学力格差について
9月入学を支持する観点の1つに学力格差を解消するという主張があるようですが、先生によれば、9月入学は学力格差を拡大させるリスクの方が大きいというのが多くの専門家の見解のようです。
つまり、一斉休校が明けたとしても、8月までに何をするかが空白となっている一方で、4月からオンライン学習に移行できている私立校にとっては、授業期間に加えて補習期間も確保できることになり、格差が広がるという考え方です。
また、国際的に見ても、6歳秋の入学は先進国では最も遅い時期となり、この授業日数や時間の減少が学力や生涯賃金に有利に働くエビデンスは見つかっていません。(アメリカでは、むしろ逆の研究結果は出ているとの事です。)
経済・社会への負の影響
政府の試算では、家計部門の負担増が全体で3.9兆円、政府の財政負担が教員確保だけで2649億円、新卒者が失う所得の合計が7157億円、税収は876億円とされています。
これ以外にも、制度やシステムの変更など、様々が短期間にのしかかってくることは容易に想像できます。
現場のデメリット
また、実際の現場で考えられるデメリットとして、子どもや保護者への心理的影響や、学校の混乱による教育の質の低下リスクが高いことがあげられます。
別の角度から、会計年度は変更されない可能性が高いことから、自治体の決算と教育関連の予算編成時期が集中することで、仮に2020年9月入学が実現した場合の、2021年3月の自治体・教育委員会は大混乱に陥る恐れがあります。
さらに、大義として持ち出されることの多い国際標準化ですが、大学で日本語の授業を続けている限りは、留学生の送り出しも受け入れも増加しないことが指摘されています。
現在の日本人留学生は、4~8月に現地の語学学校で英語を学び、ようやく9月からの大学の授業についていけるようになります。ある意味では、現在のギャップが「丁度いい」状態となっています(この辺は、ニワトリと卵な気もしますが)。
今やるべきこと
4~5月の休校時期の民間調査では、9割近い児童生徒が、家庭で学校から課された学習に取り組んでいるという結果が出ています。これは、所得層によらず同様です。
一方で、市販の教材を活用している割合は高所得層ほど高く、家庭学習に全く取り組めていない割合が低所得層に多い傾向があることから、この学びの格差を解消することが、当面の最大の課題と言えます。
東日本大震災後も、学校がしっかりしている限り、児童生徒の学習意欲や家庭学習の時間、生活規範の回復に結びついた実績があることから、9月入学で不用意に現場を混乱させるのではなく、学習内容や行事を精選したうえで、心のケアやつながりと元気の回復に努めることの優先順位が高いと考えられます。従来の詰め込み型教育も、どこかで見直さざるを得ないでしょう。
まとめ
そもそも非現実的と思われる9月入学ですが、拙速な導入によって現場や子ども・保護者を混乱に陥れる要素が非常に多くあることが理解できました。
いずれは時間をかけて検討すべきテーマであることは否定しませんが、長期間にわたって続くと思われるコロナ禍において、まずは子どもたちの学ぶ環境を整えること、特に教員の増員やICTの活用によって、密にならずかつ細やかな指導ができる体制を構築することが最優先であると、あらためて理解しました。
今後の目黒区議会でも、学校と教育の問題は議論され続けるでしょうから、いま本当に必要な検討課題について、調査を深めていきたいと思います。