フードデリバリー問題から、政治の役割を考える

レポートWeb版

フードデリバリーの「危険走行問題」

こんにちは、西崎つばさ(37歳、3児のパパ、7/4都議選での公認決定)です。

最近、Uber Eats(ウーバーイーツ)をはじめとした、自転車で飲食物を運ぶ配達員の姿を非常に多く目にするようになりました。利用者にとっては、外出せずに食事を手にする利便性がある反面、交通ルールやマナー違反の走行が危険だという声が寄せられるようになっています。

この5月に改定した「目黒区交通安全計画」では、自転車を使った配達員への対策に初めて言及しています。また、東京都は、配達員の識別番号を表示するよう、事業者に要請する方針を3月に表明しました。

さらに、ほぼ同時期に、国内13事業者が加盟する「日本フードデリバリーサービス協会」が設立され、交通事故などの問題解決に向けた指針の策定を検討するとしています。

危険走行に対し、取り締まり強化やルール設定などの対策は必要でしょう。しかし、別のところに本質的な課題が隠れているのではないか。私はそのように感じ、国内外の状況を調査しましたので、ご報告いたします。

フードデリバリーが雇用の受け皿

長期化するコロナ禍で、多くの事業者が苦境に立たされており、外食産業では上場の主要100社の閉店数が3000店近くに迫っています。雇用への影響も大きく、解雇・雇い止めは4月時点で10万人を突破しました。

一方、この間にフードデリバリー業は急拡大。利用者数は1年間で3倍超となり、市場規模は50%の大幅成長。加盟店舗数も、出前館は1年半で3倍、ウーバーイーツに至っては7倍増となっています。

配達員数は把握が難しいのですが、国内の自由業者数は1年間で2.4倍に。今年中にサービスを全国拡大するウーバーイーツでは、約10万人いる配達員が最大で20万人へと倍増する見込みとなっています。

以上のことから、フードデリバリーが失業者の雇用の受け皿となっている構図が浮かんできます。

あまりに不安定な労働環境

こうした配達員の多くは、スマホのアプリを通じて単発の仕事を請け負う「ギグワーカー」と呼ばれます。

法的には個人事業主として扱われるため、労働基準法の対象とはならず、最低賃金制度や雇用保険、労災保険なども適用されませんが、現実的には労働者に酷似しているケースが少なくありません。

サービスの基盤を運営する「プラットフォーム企業」の側にとっては、雇用関係を回避することで人件費や社会保険料を抑制できるメリットがありますが、不安定な仕事による貧困や格差を助長するリスクも併せ持っています。

働き方の実態を見てみましょう。ある事業者は、2019年11月に報酬体系を改定し、配達回数を重視する方式を導入しました。

一定期間に所定の配達件数をこなせば報酬が追加されますが、1件でも及ばないとゼロと判定され、収入に大きく影響します。悪天候の日に支給される特別報酬も、定められた時間内に配達件数を消化することが条件となります。

元の職を失い、生きるために少しでも稼がなければならない人たちにとって、こうしたシステムは、強引な運転や違反を誘発しかねません。

さらに、事故の発生を本部に報告したところ、登録停止をほのめかされる事案が多数確認されています。これは仕事がなくなることを意味し、配達員にとっては死活問題となります。

ところが、こうした状況を改善しようにも、この事業者は配達員との雇用関係を否定しているため、労働基本権も認めておらず、団体交渉を拒否しています。

コロナ禍で、フードデリバリーに助けられているお店や消費者がいる一方で、それに欠かせない配達員が、弱い立場で不安定な働き方を強いられているのだとしたら、これこそ政治が解決すべき課題ではないでしょうか。

世界各国で改革の動き

同様の問題は世界各国で指摘されており、改善に向けた動きも進みつつあります。

アメリカのカリフォルニア州では、請負労働者が所定の要件(ABCテスト)を満たさない限り、雇用労働者と見なして最低賃金や残業代、失業保険、社会保険の対象とする「ギグ・エコノミー規制法」が2018年9月に成立しました。(その後、事業者が200億円以上を投じたロビー活動により、骨抜きにされました。)

全米ではバイデン大統領が旗を掲げ、ギグワーカーの権利拡大を含む「団結権保護法案」が今年の3月に下院を通過しており、上院での議論が注目されています。

イギリスの最高裁でも、ライドシェアの運転手は従業員であるとの判断が今年の2月に示され、待機時間も含めて最低賃金を適用すべきだとしました。

これを受け、ウーバー社は3月、英国内7万人の運転手を労働者として扱い、乗客を輸送している時間に限るものの最低賃金を保障し、企業年金の適用や有給休暇に相当する報酬を支給すると決定しました。さらに、その後5月には、労働組合の団体交渉権を認めています。

フランスでは、2016年の労働法改革によって、プラットフォーム企業に労働保険の加入や職業訓練の権利保障を義務付け、労働基本権を認めたことに加え、2019年に成立したモビリティ法で、ギグワーカーがフルタイムで就労した場合に、十分に生活可能な収入を得られる仕組みを作っています。

同国の最高裁(破毀院)でも、2018年には飲食の配達員を、2020年にはライドシェアの運転手を、独立した事業主ではなく労働者であるという判決を下しています。

日本の対応は遅れている

経済産業省は、フリーランスの労働環境整備のガイドラインを今年の3月に策定しましたが、従来の独占禁止法や労働関係法令を整理した程度にとどまっています。

厚生労働省の検討会でも論点整理を進めているものの、具体的な成果を得る前に、市場が急拡大してしまっているのが現実です。

既存の法令に照らして、労働者と見なされるべきギグワーカーの存在が否定できない中、日本の動きは鈍いと言わざるを得ません。

いかがでしょうか。

目の前の危険運転に対応することも大事ですが、そこに存在する「ひと」が、安全・安心かつ生活苦に怯えることなく働ける環境を整えることこそ、政治に求められる真の役割ではないでしょうか。

日本の労働環境を破壊しかねない、この新たな課題に対して、私も引き続き調査と提案を重ねてまいりたいと思います。

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