一昨日の神奈川(大和市)研修、後半の認知症施策について。
先日のブログや以前にも記した気がしますが、大和市は、市長が元歯科医師という経歴も手伝ってか、健康都市を標榜したまちづくりを進めています。平成28年には、同市の認知症患者が1万人を超える時期を見据え、平成28年に「認知症1万人時代に備えるまち やまと」宣言を出しています。これに伴う種々の施策の中で特に注目されているのが、各メディアでも報道された、はいかい高齢者に対する個人賠償責任保険を市が実施する事業です。
念頭にあったのは、徘徊してしまった男性がJRの列車にはねられて死亡した事故です。JR東海が家族に損害賠償を求めた裁判において、最高裁では賠償責任がないと認められましたが、一審・二審では家族に賠償を命じたのです。
(参考記事:認知症JR事故、家族に監督義務なし 最高裁で逆転判決(朝日新聞デジタル2016.3.1))
大和市は鉄道が多く乗り入れており、伴って踏切も多く、今後いつ同じような事故が起こってもおかしくないという危機感から制度を検討してきましたが、いよいよ11月1日からスタートするのが「はいかい高齢者個人賠償責任保険事業」であり、同市に住民登録をしている、はいかい高齢者等SOSネットワーク(後述)登録者を対象に、市が支払って保険をかけるという仕組みです。
対象者はスタート当初で242名の見込みで、保険期間は1年間、範囲は国内で示談代行サービスが付いているとの事です。スキームとしては、傷害保険を基本に、個人賠償を特約でつけるという制度設計となっています。年間予算は250万円弱ですので、1名あたり1万円程度といった所です。
電車の遅延損害ばかりでなく、窓やベランダから物を落としてケガをさせたとか、買い物中に商品を壊したとか、散歩や自転車走行中に転倒してケガしたなど、様々な適用ケースが想定されています。公平性の議論も出てきそうですが、認知症の本人や家族だけではなく、思わぬ損害を受ける市民も発生し得るため、全体の支援につながる話でもあります。
政府では、踏切事故のようなケースの救済制度の導入を見った経緯がありますが、超高齢社会である日本において、大和市を皮切りに全国で議論が起こることが期待されます。
以下、大和市の包括的な認知症施策をメモ代わりに記します。
同市では、ステージ毎に施策を整理しています。
(学ぶ)
・多くの自治体同様、認知症サポーター養成講座を実施。昨年度は73回の開催。これまでの受講者は、8月2日時点で1万人を超えている。
・年1回の認知症講演会。昨年は、今回の研修会場となったシリウスで開催。
・認知症サポーター育成ステップアップ講座。2時間×3日のコースで、認知症サポーターが自主的な活動に取り組めることが目的。認知症の知識をおさらいするとともに、本人や家族、すでに地域で活動している方の講話やグループワークを実施。
・認知症カフェのボランティア研修:カフェの目的や認知症の理解、接し方などの研修を実施。
(予防)
・認知症予防セミナー:運動と認知トレーニングを組み合わせて脳を活性化するコグニサイズの体験。年5回。また、コグニサイズはひまわりサロン(介護保険の認定を受けていない方を対象としたもの)でも実施。
・介護予防、生活支援サービス:H29から開始した総合事業において、チェックリストの対象者に、運動と脳の活性化レクリエーションを実施。現在9事業所で実施。
・タブレットを活用した認知機能の検査を、H30年1月より実施予定。国立長寿医療研究センターが開発したアプリを導入し、65歳以上の市内在住者を対象とする。検査データは同センターに送信され、1週間程度で検査結果が返信される(5段階評価)。軽度認知障害の疑いがある方は、窓口や戸別訪問で保健師が生活状況を確認し、生活指導、認知症予防指導などを実施したり、介護予防事業などへの参加勧奨をしたりする。認知症が疑われる方は、医療受診や介護サービス利用支援、関係機関調整などを行う。
・コグニバイク設置等事業:運動しながら脳を使うという認知トレーニング機器を活用。シリウス4階に設置、月曜と木曜に体験できる→なんと一昨日が設置日で、まだ動いてはいませんでしたが、実物は見ることができました。
(相談)
・総合相談窓口:地域包括支援センター、高齢福祉課、介護保険課。市および包括には、認知症地域支援推進員を配置。
・認知症初期集中支援チーム:支援が必要だと判断されるケースを、医療受診やサービスの利用に繋げる。
(家族介護者への支援)
・認知症ケアパス:認知症ケアの流れを整理して示し、家族の不安を軽減。
・認知症カフェ「やまとカフェ」:気軽に集い交流する場。H29は年8回開催。(H28は4回)
・介護者教室:年4~6回ほど開催。介護方法や介護予防、介護者の健康づくりなど。認知症に限らない。
・はいかい高齢者等SOSネットワーク:事前登録する制度。所持品に貼るQRコードのシールや、反射ステッカー、SOSワッペンを配布。もし徘徊した先で見つかった場合、SOSネットのナンバーを参照できる。公共交通機関や他自治体にも情報提供し、捜索や身元確認ができるように連携。また、GPS端末を収納した専用シューズによる「はいかい高齢者等位置確認支援事業」がH29に開始された。
・臨床心理士による認知症相談、介護者交流会。それぞれ年6回。気持ちを整理する機会を設ける。H29からスタート。
(その他)
・認知症カフェの運営補助:自主的に運営する取り組みを支援。1回8000円、上限96000円。4団体。
・認知症多職種協働研修:専門職同士の研修。
・地域の見守りと安心できるまちづくりに関する協定:市内16事業者と締結し、地域の見守り体制をつくる。
・認知症チェックサイト:市のホームページで簡易チェックが可能。
・成年後見制度:年1回の講演会や個別相談会も実施。
こうしてみると、多岐にわたる事業をもって、認知症の方や家族を支えようという大和市の姿勢が伝わってきます。ぜひ参考にしたいと思います。