目黒の児童虐待死事件に思うこと
本年3月に区内で発生した児童虐待死事件は、女児のノートの公開を受け、再び日本中で話題となりました。「おねがいゆるして」という、あまりにも胸の痛む文章に、深い悲しみと怒りを感じざるを得ません。
世間では児童相談所への批判が相次ぎ、親権停止や警察との連携、児相間の引き継ぎといった改善点が、有識者やメディアによって指摘されています。
これらに異を唱える気はありません。しかしながら、上記をもって児童虐待への対策だとするのであれば、論点がずれていると私は思います。
目指すべき方向
いま議論が白熱しているのは、虐待発生後の話です。最も愛し守ってくれるはずの親から暴力やネグレクトを受けるという、想像を絶する辛さを子どもが味わってからの話なのです。
児相の体制強化は、子どもの命を守る観点からは重要ですが、根本的な問題解決にはなりません。
いかに虐待の発生そのものを抑制し、苦しむ子どもと親を減らしていくか。こちらが本当に目指すべき方向ではないでしょうか。
児童虐待を防ぐために
1.どこまでも子育て支援を
わが子を愛し、理想的な親を目指しながらも、日常の育児や生活環境に悩み苦しんで、虐待に発展してしまうケースは少なくありません。核家族化が進み、地域の繋がりも希薄な現代においては尚更です。これに対しては、官民問わず子育て支援体制を徹底的に整える必要があります。
例えば、全ての妊婦と面接する「ゆりかご・めぐろ」の強化。この事業は、支援が必要とされた妊婦を継続的に支えるものですが、担当者が親との信頼関係を築くことが最も重要です。
今後は、産後ケアなど支援プランの充実に加え、「ほ・ねっと ひろば」との連携によって、子育て世代包括支援センター事業へと発展させ、子育てをどこまでも支える環境や雰囲気づくりを目指すべきでしょう。
また、家庭での男性活躍推進に向けた民間の協力も不可欠です。前回のレポートで取り上げた男性の育休取得もその一つですが、長時間労働を排し、夫も家事や育児をするのが当たり前の社会にすることは、母親の孤立防止策となります。
2.実情に合った教育
全ての原点といえる対策が、学校での性教育や命の教育です。自分の身体がどういう状態なのか、性交渉でどんな事態が起こり得るのか、どうやってリスクを避けるのか。生命を授かるとはどういうことか、そもそも命とは何か。
こうした知識や認識の不足によって、望まない妊娠をさせたり、したり、果ては父親が消えて母子が残されたり、虐待に繋がったりするのです。
現代の実情に合わせ、きちんと教育することによって、こうした問題の多くは未然防止が可能です。また、最近の足立区で問題となった性教育授業への介入のように、これを妨げる守旧派とも戦わなければなりません。
川の上流の問題を解決する
現実はそう単純ではありませんが、つまりは対症療法ではなく原因療法が重要なのです。そして、それには住民に最も近い区の役割が強く求められます。
今回の事件を教訓とし、大きな制度改正に目を向けるのも結構ですが、基礎自治体の議員として、根本的な問題解決を目指した議論をしていきたいと思います。もう二度と、こんな悲しい思いをしないために。
目黒区の虐待対応状況
子どもと家庭に関する相談の一義的な窓口として区が設置する機関。高度な専門性が求められる重篤な虐待事例は児童相談所、それ以外はコカセンで対応するなど、相互の連携が図られています。
目黒区の新規受理件数は、2016年度にやや少なかったものの、ここ数年は170~180件程度で推移しています。他自治体と比べ、虐待内容は同様の傾向ですが、主たる虐待者に実母がやや多くなっています。
児童福祉法の改正に伴い、目黒区も児相の設置に向けて動いていますが、下図のように対応件数が年2割近いペースで増えていることを考えても、虐待防止に注力すべきことは明らかです。
児相・コカセンだけでなく、子育て支援に関する全ての資源を繋げて、親子を守る体制を築かなければなりません。