豪雨災害から1年(生福委視察2日目)

研修・視察

2019.10.17 岡山県倉敷市 視察

西日本豪雨災害から1年と3ヶ月。今回は、特に被害の深刻であった倉敷市の真備地区の復興状況を拝見するとともに、2事業を学ばせていただきました。

発災後、真備地区には目黒区からも職員が派遣され、罹災証明書の発行業務などを支援していました。現在も、ある中学校は仮設校舎で対応するなど、かつての生活には戻れていない状況が続いています。

また、地域の様々な場所には、水が押し寄せた部分に線が引かれているのですが、2階部分すら飲み込もうかという高さには驚愕させられました。周辺に3階建て以上の避難できる建物は限られており、復興と同時に、次なる水害への対策も課題であることが感じられました。

高齢者対策

市の状況

倉敷市は、人口48万人あまり、一般会計の規模は2000億円弱と、目黒区に比べて大きな自治体です。既に人口減少に転じている一方、やはり高齢者人口は増加しており、2025年には高齢化率が29.4%に達する見込みとなっています。特に、今後は後期高齢者の大幅な増加が見込まれており、認知症高齢者数もますます増加していくことが予測されています。

くらしき見守りネットワーク

倉敷市では2016年から、地域の企業や団体などと連携して「くらしき見守りネットワーク」を構築しています。現在、協定を締結している事業所は45あり、見守り担当者を設定して、状況に応じて市や警察、消防などに通報する仕組みとなっています。

くらしきマスターズ制度

他の高齢者の手本として、元気を与える存在と認められる高齢者に対して、称号を与えるオリジナルの制度です。

80歳以上で、自主的な活動、独自性があり模範となる活動、他者と積極的に交流を持ち、地域貢献につながる活動といった条件を全て満たす方を他薦で受け付け、選考のうえで決定しています。

これまでに84名が認定されており、表彰を受けた方は、写真や活動内容が広報誌に掲載されるとのことです。

産業振興センター

午後は同市の児島地区に移動し、産業振興センターを視察しました。国産ジーンズ発祥の地として、デニムやジーンズを全面に押し出している地域です。

児島について

児島は、倉敷市の一地域ではありますが、元は単独の島であった歴史があります。地域の人口は約6万8000人で、綿花の栽培から繊維業が非常に栄え、その製品も足袋から始まり、学生服、ジーンズと時代に対応して変化してきています。

1960年代に、初の国産ジーンズ(現在のビッグジョンに当たる)が同地で誕生したことを受けて、それ以降、商店街の空き店舗にジーンズショップの誘致を進め、ジーンズストリートが形成されました。現在も出店希望が国内外から寄せられているとのことです。

また、上記のような経緯から、デニム産業を徹底的に観光資源としていることが、児島の特徴です。ジーンズミュージアムに始まり、街を走るジーンズタクシーやバス、レンタサイクル、駅やトイレの装飾など、ジーンズや学生服に結びつけての見どころを多数設置しています。

インキュベーション

岡山県に設置されているインキュベータ協議会が、県内に設置している8施設のうちの一つが、「児島デザイナーズインキュベーション」です。

その名の通り、デニムを主として、アパレル・デザイン関係で起業する方々をサポートする施設で、7部屋中6部屋が入居しており、来週には残りの1つも埋まる予定とのことでした。これまでに15事業者が退所(卒業)しており、うち13事業者は引き続き事業を継続しています。

機能

同センター内には、スタジオにもなる多目的スペースや、交流コーナー、PRエリアや多数のミシンが設置されたワークスペースなど、様々な機能が備わっています。高価なミシンなども、入居者は格安の入居費のみで利用できるようになっており、立ち上げ期の起業家にとって非常にありがたい施設となっています。

入居者の対象は、倉敷市内で事業を展開する予定の個人やグループ、設立5年以内の会社とされており、基本的には3年を区切りとし、状況に応じて1年の延長が可能となっています。

インキュベーションマネージャーが常駐し、資金調達や販売ルート、仕入先など初期にありがちな悩みに応じるほか、入居者同士でのミーティングで情報共有も行われています。

入居者の声

今日は、入居している方のお話も伺うことができました。

その方は、以前はアパレルと無関係の仕事をされていましたが、Gジャン好きが高じて思い立ち、自ら制作・販売を行おうと、身体ひとつで茨城から児島に移住してきています。

デニムを扱う仕事を始めようと思ったら、これだけ手厚いのは全国でここしかなかったとのことで、人を呼び寄せて産業を振興させる同施設の目的にピタリと合致していることが分かります。

まとめ

高齢者対策は、全国共通の課題です。特に認知症患者は今後ますます増加することが確実で、街をあげて見守りのネットワークを築くことは不可欠でしょう。そのためには、まずは認知症とは何たるかを理解してもらうことが大事で、目黒区がこれまでに行ってきた啓発をより効果的に展開していくことが重要と考えられます。

また、産業振興について感じたのは「自然さ」です。繊維業としての歴史・経緯があり、その流れでインキュベーションまで繋がっている児島の取り組みは、大いに説得力があります。目黒区として、縁もない地から横取りしたような施策を実施しても成就する可能性は低く、目黒区ならではの合理的な振興策が求められるのだと思います。これは、産業経済以外の分野でも全く同様でしょう。

ただでさえ「目黒ブランド」は存在すると思われますから、自己分析したうえで、どういったプロモーションが可能なのか、探っていきたいと思います。